2021.03.22

木屋の歴史① 江戸時代初期~郷宿の時代

2017年11月に本社を移転した機会に、以前からやっておきたかったことの一つである、木屋の歴史について調べることにしました。
その際、お願いするならこの方、と心に決めていた、埼玉県所沢市の行政書士 丸山学先生に依頼しました。
丸山先生は家系図作成を専門に行なっておられ、多くのメディア出演、講演実績の他、著書も出版されています。

調査は2018年4月から約1年半かけて本当に丁寧に行っていただきました。
その中で木屋の歴史に関する部分を書いていきたいと思います。


笠松陣屋跡

木屋のルーツ

木屋は現在、愛知県名古屋市中区丸の内にありますが、そのルーツは現在の岐阜県羽島郡笠松町にあります。

菩提寺の過去帳等で江戸時代前中期のものが現存していれば、いつから「木屋」の屋号が使われるようになったかが分かるのですが、1891年(明治24年)に発生した濃尾地震により消失しており、残念ながら確認することはできませんでした。

三輪家には、江戸時代から「木屋(きや)」の屋号を称し、美濃国(みののくに)羽栗郡笠松村(現岐阜県羽島郡笠松町)にて郷宿(ごうやど)を営んだ後、江戸時代後期には醤油醸造業を開始。
1891年(明治24年)に重蔵・傳十郎が販売部門を名古屋に出店した、との口伝があります。
※実際には名古屋に出店したのはもう少し早かった、という説もあります。

郷宿の時代

木屋が営んでいた郷宿(ごうやど)は、公事訴訟や裁判のために地方から来た者を宿泊させた江戸時代の宿屋のことで、公事宿公事人宿・出入宿・御用宿とも呼ばれていました。
藩庁・代官所在地などにある宿なのですが、通常の旅人を宿泊させる宿ではなく、藩庁や代官所に公用のある地方の庄屋等を主な顧客としていました。
また、訴訟を起こす者の宿でもありました。
そのため、訴訟を受け付ける藩庁や代官所の傍に所在していました。

そして、単に訴訟の用事できた人々を泊めるだけでなく「訴状の作成」「訴訟手続の代行」「弁護人」等の仕事も引き受けていました。
現代でいうところの弁護士、司法書士といった仕事になります。


笠松陣屋・県庁の跡

笠松は幕府直轄領でしたので、代官(郡代)が置かれ、その代官の役所を陣屋(じんや)と呼びました。
笠松陣屋は現在の笠松県庁跡にありました。
木屋があった場所はそのすぐ傍です。

その笠松陣屋と一対となっているのが郷宿です。
陣屋が出来れば必ずそこに郷宿が必要となるわけです。

『笠松町史』には、岐阜落城の翌年、1601年(慶長6年)に幕府からの使いによって役所が作られて以降、郷宿も作られるようになったとあります。
美濃郡代の陣屋は当初可児郡徳野にありましたが、1662年(寛文2年)に陣屋を笠松に移転しています。

この時に笠町陣屋の周辺に郷宿が生まれたことは間違いないことから、1662年(寛文2年)または、その少し後に「木屋」の屋号で郷宿を始めたと考えられます。

郷宿の仕事

木屋では、毎日のように笠松陣屋に公用で出向いてきた美濃国各村の庄屋や、訴訟の用事で来た人々を宿泊させ、特に訴訟人のために、手続きの代行、弁護といった仕事をしていました。

『笠松町史 上巻』の472~475ページにかけて「田代の紋所争論」と題して、1811年(文化8年)に田代村で起きた争論の顛末が記述されています。
この時の当家の祖先である「郷宿 伝右衛門」は、仲裁人といった役割で署名をしています。
※これが「木屋」が史料上に登場する最も古い記述になります。


『笠松町史 上巻』

その内容はこうです。
田代村の小前下百姓である忠吉と儀蔵、さらに中分百姓の半兵衛という三人が従来使用していた衣類の紋所「三ツ亀甲」を捨て、新たに頭百姓だけが使用できる「釘貫」の紋を使用しはじめたのが事の発端。

そうした身分違いの紋を使用することは村のしきたりを乱すものだとして、庄屋をはじめ村役人が笠松郡代役所(笠松陣屋)へ訴え出ました。
吟味の結果として、半兵衛は検地縄請け(村の開拓当時からの高い家柄)の子孫であり、実は中分百姓ではなく頭百姓に当ること、忠吉と儀蔵についても元をたどれば、その半兵衛の分家であることが分かりました。

元をたどれば村内でも高い家柄だということが確認されたのです。
ただし、同時に現在は検地帳にも名を載せていない下百姓であるとも断じられました。
とはいえ、何の紋を付けても差し支えないであろうということを双方へ説得させ、結局和解することになります。
この仲裁に入っていたのが笠松の郷宿の二名であり、そのうちの一人が伝右衛門でした。

木屋は、こうした郷宿としての業務を行いながら、やがて醤油醸造業も併せて行うようになっていきました。

続き→木屋の歴史② 江戸時代後期~味噌醤油醸造業の時代

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