2001.11.07
5日目その1:ヘット・アンケル醸造所へ
ヘットアンケル醸造所
今日は少々ゆっくりのスタート。比較的ブリュッセルから近いメッヘレンにあるヘット・アンケル醸造所が最初の訪問場所だから。このメッヘレンはカール5世が幼少期を過ごしたという、かつてはヨーロッパの中心地として栄えた町だ。
雨の中、醸造所の予習などしながら走ること30分、早々と醸造所に着いてしまった。ここはカフェも併設しているのでコーヒーでも、、と言っているうちにブルワーの、ハンス・ヴァン・レモールトル氏が出てきて早くても良いから案内してくれるとのこと。
この醸造所の運営は社長を含め3名のスタッフで行われている。まず社長室へ。ここでヴァン・ブリーダム一族5代目で現社長のシャルル・レクリー氏自ら、歴史や醸造についての話しを聞かせてくれた。
投入されるスパイス類など
この醸造所の歴史は古く、1369年にはメッヘレン市の税金の登録に既に記載されている。1471年には病院の記録に残されている。ベギン会の病院に寄付したため税金を免除するとの記録。当時は水を介して伝染病が広がったため、ビールは安全な飲み物として病院とは密接な関係にあったようだ。
屋上には屋根付の冷却槽
1960年にはこの醸造所のレギュラーアイテム「ガウデン・カロルス」をリリースし、ベルギー国内や海外でも成功を収めた。当時としては、有名なモルトガット醸造所の「デュベル」とともに、ベルギーで最初のスペシャリティビールとしての一歩を歩み始めたのだが、ヘット・アンケルは途中でつまづいてしまった。当時の経営者はそれ以上の投資ができなかったからだとレクリー社長。
その後経営難に陥ったこの醸造所はリヴァ醸造所と提携、1993年までその関係は続いた。そして1994年~98年にはジョン・マルティン醸造所と提携、現在は独立してレクリー社長以下3名のみのスタッフで運営されている。
3人のスタッフは次々に新しいものをつくりだすという。まず醸造所内に近所の人も気軽に立ち寄れるようなカフェを造り、次に古い倉庫をホテルに生まれ変わらせた。このホテルは22の部屋があり、名前を「Carolus(カロルス)」という。
その3人のうちの一人、ルーヴァン大学醸造学科を卒業した若きブルワー、ハンス氏が醸造所内を案内してくれた。一見物静かに見えるが、内にはビール醸造に対する情熱とパワーにあふれたガッツマン。
この醸造所にはベルギー唯一というものが3つもある。そのひとつがこの醸造所内の宿泊施設。次回訪れる時はぜひ泊まりたいと思った。
2つ目の唯一はホップ。ここではベルギー産、厳密に言うとホップ産地であるポプリンゲのものしか使っていないということだ。
そして最後が本でも読んで知っていた屋上の冷却槽。冷却槽に蓋は無く12本の柱によって屋根が取り付けられており、ランビック醸造所のように麦汁は空気にじかに触れることになるのだ。もちろんここで私はハンス氏に聞いてみた。
「発酵にたいするワイルドイーストの影響はないのですか?」。
すると答えは意外なもので、「この冷却槽は10年前まで使用していたもので現在では使っていないんだよ。使用していた当時でも煮沸後60℃までの冷却に使われていただけなので、ワイルドイーストの入る可能性は無い」との事。本での疑問がやっと晴れた気がした。それからこの冷却槽のある屋上からは素晴らしいメッヘレンの街が一望できる。
これがその冷却槽
屋上からのメッヘレン市内
一通り醸造設備を見せてもらった後に先ほどのカフェへ。ここでハンス氏と一緒にテイスティング。
2001年8月より発売された新製品、グーデン・カロルス・トリプルを始め、カフェでしか飲めないというピルスナーなども試飲させてもらった。試飲しながら醸造について熱く語るハンス氏がとても頼もしく思えた。
ヘット・アンケルはこれからも小規模の製造、伝統的な製法でビール造りを続けていきたいと考える、若いパワーあふれる今後も大注目のアルティザナールな生産者だと思う。さらに今後の活躍に期待したい。
※その後メッヘレンの中心部へ。聖ロンバウツ寺院はノートルダム大聖堂にも匹敵するくらい素晴らしいところだった。その割には無料だし、管理については無関心にほおって置かれているようにも見えた。中にはヴァン・ダイクの「十字架のキリスト」も。ゆっくり見るには最高の場所。
2001.8発売のトリプル
店主・ハンス氏・大旦那