醸造所訪問記

今日は3軒のトラピスト修道院を訪問する、とても忙しい日。
6時半起床、朝食を摂った後8時にバスが出発した。

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9時にはウェストマールに到着。
ここに来るのは1年8ヶ月ぶり。
ただ前回はアポイントなしだったのでここまでだった。

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いよいよ門が開いた。
ここからはガイドのナタリーさんによる案内。
ここでは撮影だけでなくメモすら禁じられることがある、と聞いていたのだが、ラッキーなことに今回は場所は限られるものの、撮影とメモは許可された。
まずは門を入って左側奥の教会のほうで修道院の歴史についての説明。

ウェストマール修道院は、1794年に設立された。
1836年にはトラピスト派修道院となり、同じ年にマルティナス・ドム(Martinus Dom)修道院長が小さな醸造所の建設を開始した。
長年にわたって修道院内のみでビールを消費してきたが、1856年からはり修道院の門のところで少量のビールを売りはじめた。

1921年からは商業用に販売することになり、販売が増加。
1930年代の初めには、新しい醸造所、発酵室、作業場などが作られた。
現在の醸造所のいくつかの建物は、その当時のもの。

ビールの醸造量は12,000klまでと決められており、それ以上は作らない。

現在修道士は23名で新たに6人の新人修道士がはいったそうだ。
新人の修道士が入るのはとても異例なことらしい。
現在は55歳の修道士が最も若く、あとは恒例の修道士が多い。

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いよいよ仕込み室の中へ。

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奥の壁には十字架。

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一段高いところにあるのが仕込み釜。
その奥に研究室があるのだがそこは立ち入り禁止。

ここでは一日20klの仕込を行う。
水は井戸水を使用している。

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こちらが煮沸釜。
ダブル、トリプルには煮沸中に液体のシロップが加えられる。
エクストラには何も加えない。

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こちらがホップ(種類は秘密)。
ペレットで無く、生のものを使用している。
煮沸中に手で3回加える。
行程はすべてコンピュータで制御されている。
手を使うのはホップを投入するときのみ。

(醗酵室は立ち入り、撮影禁止)

仕込み室の反対側には発酵室があるが、入ることも撮影することも禁止。
発酵は20klの横に長いタンクのなか、約20℃で3日から1週間。
酵母は修道院の外で保管されており、約35週間使用する。
ここでウェストマールのグラスに入れられた実際の酵母を試飲?させてもらうことができた。
乳白色でフルーティーな香り、ピリピリとした酸と強い苦味を感じるものだった。
医者の処方箋があれば外部に販売することもあるそうだ。

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仕込み室、醗酵室の建物を出て、入り口に近いところにある熟成室へ。
ここは2006年に作られたもので、12klのタンクが60本設置されている。

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ここでは約10℃で4~5週間の熟成が行われる。
その後遠心分離機にかけられる。

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2000年に改修が行われた瓶詰ライン。
1時間に45,000本のビールを充填することができる。
実際には月曜日から木曜日の午前中のみ稼動している。

ここでは社員が仕事をしやすいように、天井には騒音対策用のパネル、壁面はガラス張りにして明るさを取り入れるようにしている。

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やはりここでもドイツのクローネス社製のものを使用している。

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次に瓶詰後の熟成庫。
広さは3,500平方メートルあり、125,000ケースのビールを収容することができる。
照明はUVカットのものを使用し、品質に配慮している。

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ここでは約20℃で3週間熟成が行われる。

全工程で約2ヶ月かかる。
ダブルが35%、トリプルが65%の割合となっている。
普段は330ml瓶のみの瓶詰だが、年末に限り750mlの瓶詰も行われる。

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そしていよいよお楽しみのティスティング。
瓶詰ラインをさらに奥に行ったところにあるティスティングルームに案内された。
ダブル、トリプルに加えて、なんとエクストラの試飲も。
昨年はカフェでも飲むことができなかったのでうれしい。

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ウェストマール・エクストラは流通ルートには乗らないビール。
黄色い王冠で、かつてはラベルもなかったが現在は写真のようなラベルが貼られている。

現在、修道士はほとんど口にしておらず、ゲスト用に提供されている。

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オレンジがかった黄金色。
レモンのような柑橘系の果物の香り、ホップのさわやかな香り。
トリプルと味の方向性は似ているが、もう少し軽くて苦味、渋みがさわやかでバランスも良い。
アルコール度数は4.8%。

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修道士たち自身が作っているチーズ。
とても量が少ないため、地元の人への販売のみとなっている。

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醸造所訪問記

オルヴァル修道院を出て1時間少々で次の目的地である、ロシュフォールのノートル・ダム・ド・サン・レミ修道院に到着した。
じつはこの修道院に行けることがこのツアーに参加することを決めた最大の理由だったので期待に胸が膨らむ。

ちょうど10年前にもここを訪れているのだが、もちろん門のところまでしか行くことはできなかった。
ここはトラピス修道院の中でももっとも外部からの見学者に厳しいと言われており、これまで私の知り合いの中でここに入れたのはたった一人しかいないくらいなのだ。

ノートル・ダム・ド・サン・レミ修道院は1230年に設立され、1460年までは女子修道院だった。
15世紀の終わりにフランスから男子修道士たちがやってきたため、1464年から男子修道院になった。

最初にビールの醸造を開始したのは1595年。
修道院はのちにフランス革命によって破壊されてしまうが、1887年に再建され、1899年にはビールの醸造も再開した。

現在修道士は13名。
年齢は40歳から83歳までで平均年齢60歳。
実際に醸造所で働いているのは修道士でなく、外部の人たち。

左が醸造責任者のストレーニャル氏、右側がアントワーヌ神父。
マイケル・ジャクソンの本にも登場するアントワーヌ神父にお目にかかれるとは思ってもみなかった。
今回は幸運なことにすべての場所において撮影も許可された。

さっそく醸造所に案内してもらうことに。
左側の建物は1668年に建てられた馬小屋。

正面に見えるのが醸造所の建物。

入り口には「Brasserie」の看板が。

入り口を入ると、意外にもこうしたショーケースが置いてあり、古い瓶や、グラスに入れられたビールの原料などが展示されていた。

こちらはこれまでのグラスの形状の変遷。
タンブラー型のものはここで初めて見た。

聖アルノー。

狭い階段を上って2階にある醸造所へ。

ここが1960年代に造られたという醸造所。
壁には十字架がかけてあり、窓はステンド・グラスで飾られている。
手前から煮沸釜、仕込み釜、一段高いところにろ過釜。

1回の仕込みは10kl(ロシュフォール6及び8)、10のみ7.5kl。
10klの水に対して大麦麦芽1,700kg、小麦125kgの原料が使われる。
水はトゥリデンの井戸水、麦芽はピルスナーとミュンヘンの2種類、ホップはスロベニア産、ハラタウ産の2種類が使われる。

仕込みは午前4時から開始。
マッシングはステップインフュージョン方式で、57℃まで温度をあげて35分、次に36℃まで下げて25分、最後に74℃まで上げる。

1952年から2009年までは1週間に4日間だけ仕込みを行うというルールがあったそうだ。

ろ過された麦汁は別の部屋にある遠心分離機にかけられる。

熱交換器で冷却された後、発酵の過程へ。

発酵タンクの部屋に行くまでにある小さな博物館(通路)。
かつて使用していた道具や木箱などが展示してある。

次に発酵タンクの部屋へ。

現在の設備は2003年に新しく導入されたもの。
40klのものが2本と23klのものが1本、合計3本のタンクがある。
ここで4日間の一次発酵が行われる。

次に熟成室。

現在の設備は2007年に新しく導入されたもの。
27klのタンクが4本設置されているが、現在稼動しているのは2本のみ。
まだあと2本分、生産量の余力があるということだ。

瓶詰前のビールに糖分と酵母を加える装置。
ここで加えられる酵母は主発酵(一次発酵)と同じもの。

瓶詰ライン。
ここもやはり他と同様、ドイツのクローネス社のものを採用している。

瓶詰は1週間に1回行われる。
ロシュフォール6と8は1時間に22,700本、ロシュフォール10は21,600本瓶詰することができる。

次に2008年にできたばかりという熟成庫へ。

ここでは瓶詰後21℃で2週間熟成が行われる。
約200パレットを収容することができる。

全工程で約1ヶ月かけてロシュフォールは出来上がることになる。

醸造所の見学を一通り終え、別棟のティスティングルームへ。
ここはビールのティスティングに使われるほか、イースターやクリスマスのミサの後、ここに集ってコーヒーなどを飲む場所となっているそうだ。

テーブルの上にずらっと並んだロシュフォール6、8、10、そして専用グラス。

グラスにビールを注いでくれるストレーニャル氏。

アントワーヌ神父も一緒に乾杯!

ここでは参加者の皆さんからたくさんの質問があり、とても和やかな雰囲気の中でビールを楽しんだ。

日本にもそれほど多くは輸入されていないロシュフォール6は、やはりベルギーでも数が少なく限定になっている。
それは手間が掛かる割には価格が安く設定されているため。

ロシュフォール6を造る理由は、年に1度新しい酵母を使うためだそうだ。
ロシュフォール8や10などアルコール度数の高いビールで使うと酵母へのダメージがかかるため、比較的度数の低いロシュフォール6で酵母を育てるために造られているのだ。

アントワーヌ神父に『ベルギービール大全』をプレゼントしたところ、とても喜んでいただき、お礼にロシュフォールの看板をいただいた。
これまでコースター以外の販促品は見たことが無かったのでこれは貴重品。その看板を持って一緒に記念撮影させていただいた。

なんと『ベルギービール大全』は修道院内の図書館に蔵書として置いていていただけることになった。

楽しくお話しているうちにあっという間に時間が過ぎ、残念ながら教会を見学する時間がなくなってしまったが、その分アントワーヌ神父、ストレーニャル氏ととても有意義な時間を過ごすことができて大満足だった。

午後5時に修道院を出発。

■ロシュフォールの紋章について

上部の杖のような部分は、ビショップ「司教」の意味。
中央の傘または木のようなものは、宗教のレリーフで信仰を表すもの。
左側の星は、希望を表す。
右側の花は、バラで愛を表している。

 

醸造所訪問記

今日は2つの修道院をまわる予定なのでかなりハードな一日になりそう。
午前7時にはホテルを出発。
9時半に最初の訪問場所であるオルヴァル修道院に到着した。
ここに来るのは今回で4回目。

※以前の訪問記もぜひご覧ください。
1996年9月30日
1999年10月26日
2006年11月6日

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到着するとすぐに醸造所の事務所の上階にあるティスティングルームに案内された。
ここに入れてもらうのは初めて。
ここで、エクスポート・マネージャーのデ・ハーレンさんから醸造所の歴史についてのレクチャーを受ける。
デ・ハーレンさんに会うのも約3年ぶり。

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部屋の隅にはティスティング用の冷蔵庫や流し台が設置されていたが、なんと樽生用と思われるタップが2本立っている。
何のためのタップか訊ねてみると、特別に樽生も用意しているとのこと。
もちろん流通することはあり得ず、ここだけのものだ。

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これが2007年に新しく入れ替えられた仕込釜。
ステンレス製だが修道院の醸造所という伝統を守るため、赤銅色に塗られている。

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かつては1回10キロリットルの仕込を毎日3回ずつ行っていたが、新しい設備になってからは1回25キロリットルの仕込を月曜と火曜の朝のみ6回ずつ行っている。
以前の1週間の仕込み量をたった一日でこなしてしまうのだ。

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こちらは以前からある釜。
2007年以降は使用されていない。

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酵母を培養するためのタンク。
かつてはルーヴァン大学で培養を行っていたが、現在はここで行っている。

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発酵タンク。
20klのジャケット付きタンクが6本あり、4日間一次発酵が行なわれる。

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地下にある二次発酵用のタンク。
こちらは横向きになっている。
現在、10klのものが28本、20klのものが6本ある。
15℃で約3週間熟成される。

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この日はおやすみだった瓶詰めライン。
2005年に導入された、やはりクローネス社のもの。
この設備ではスタッフ2名だけで1時間あたり2万7千本、一日で約12万本のオルヴァルを瓶詰めすることができるそうだ。
ここで瓶内発酵用の酵母と糖が加えられる。

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最後に15℃の熟成庫で約4週間の瓶熟成が行なわれる。
他の醸造所よりも瓶熟成の温度が低い理由は、オルヴァルにとって味のバランスがよくなること、そしてより透明度が高くなること。

2009年度の生産量は6,300キロリットル。
92%がベネルクス3国に出荷されている。
瓶はリサイクルされており、オルヴァル専用プラ箱の40%はすでに30年以上使用されている。

残りの8%は、日本を始め、北米、カナダ、イタリア、イギリス、北欧などに輸出されている。

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チーズ・ファクトリーの方を通って修道院内部へ。
ここを通るのは初めて。

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修道院内の回廊。

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マリア様。

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ガイドの女性による解説を聞きながら修道院内部を見学。
かなり激しい雨だったので傘をさしての見学となった。

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ちょうど時間的にお昼休みだったため、売店には入れず。
受付でチーズだけは販売していたので、皆競うようにチーズを購入。
私も熟成タイプのチーズ500gを購入。
こんなところに冷蔵庫が隠されているとは知らなかった。

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いつも立ち寄るオーベルジュ、アランジュギャルディアンが2011年までという長期にわたって休業していたため、この日は歩いて10分ほどのレストラン、オステルリードルヴァルで昼食。

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オルヴァルを注ぐデ・ハーレンさん。

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エビのお料理。
これは本当に美味しかった!

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レストランの前で見つけた、鱒をあしらった蛇口。

この日はもう1件の訪問予定があったため、午後1時半頃レストランを出発した。

 

 

醸造所訪問記

そしてお楽しみのティスティング。

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ここでは特別に1999年ヴィンテージのシメイ グランド・レゼルヴ750mlが開けられることに。

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それぞれのグラスにシメイを注ぐファブリス氏。

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すでに10年経過しているにもかかわらず枯れた感じはほとんど無い。
マデラ、ポートのような深みのある味わいで苦味もしっかりとあり、まだまだ熟成できそうな感じだ。

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そして次に出てきたのが、シメイ・ドレー、通称ブラック。
あちこちで「わーっ!」と歓声が上がった。
このビールは修道院と、近隣のカフェでのみ飲まれているもの。
正規の流通ルートには決して乗らないものだ。

色は明るいアンバー。
シメイ・レッドと同じレシピによって作られているが、コリアンダーが加えられており、軽いタイプに仕上がっている。
柑橘系の香りがさわやかでバランスよく軽やかな味わい。

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ティスティングルーム。
ここでは毎日シメイビールのティスティングが行われている。

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お昼もかなり回っていたので昼食会場に移動。
修道院からすぐのところにある、ferme des 4 saison。

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ここでは、シメイ赤白青の750ml瓶が飲み放題。

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それに、グラン・クラシック、グランクリュ、ヴュー・シメイ、ア・ラ・ビエール、ラ・ポットプレの5種類のシメイチーズも。

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3種類すべてを飲み比べ。

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シメイビールとチーズやお料理とのマリアージュを楽しみます。

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最後はシメイ・グルメグラスに入ったこんなデザートが。

楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、午後4時にはお別れ。
午後6時半頃ブリュッセルに戻った。

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私以外の皆さんにとっては最初のグランプラス。
クリスマス用のイルミネーションで飾られている。

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昨日の樅ノ木にも電飾が付けられ始めていた。

アドベントといわれるクリスマスイブまでの約四週間には、さまざまなクリスマスのイベントが行われるそうだ。

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少しだけ自由時間があったので、ここで皆さんはお買い物。
写真は昨日も来たBier Tempel。
ここで持ち帰れないほどのビールグラスを購入されたコレクターの女性がいてびっくり。

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再集合の後、こちらも昨日来てしまったシェ・レオン。

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またもやムール貝をたらふくいただく。
ここでは、ベルギーで「欧和」というビールを醸造している今井さんと合流。

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解散した後、今井さんも一緒にデリリウム・カフェへ。
ものすごく流行っていて地下も1階も満席だったが、最近増設したという2階のスペースになんとか座ることができた。

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自ら「欧和」を注いでくれる今井さん。

この後11時半頃にはホテルに戻り、午前1時頃就寝。
中身の濃い一日だった。

 

醸造所訪問記

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次に瓶詰工場から数キロ離れた修道院へ移動。

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ノートルダム・ド・スクールモン修道院の看板。
とても静かな場所にある。

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正面が修道院の入り口。

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内側から見た入り口。
入ってすぐ右側に受付がある。

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修道院のある村の航空写真で位置を確認。
スクールモン修道院は350ヘクタールを所有している。

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中庭を通って教会へ。

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反対側は修道士たちのスペース。

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教会の入り口。

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スクールモン修道院内部の教会。

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そしていよいよ醸造所の中へ。
もくもくと蒸気が上がっている。

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こんなところにも十字架がある。

まず、原料の大麦麦芽と小麦を、修道院用地内にある二つの井戸からくみ上げた水と一緒に仕込み釜に入れて約1時間半仕込む。
ここでは一日3回仕込を行っており、1週間の最大の仕込み回数は14回まで。

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仕込が終わった後は写真のろ過器でろ過して煮沸釜へ。
ここで出た粕は家畜の飼料となる。
粕は地元の農家が取りに来て、彼らの牝牛に食べさせ、その牛乳がシメイチーズに使われている。

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煮沸釜の容量は25キロリットル。
行程の始めと終わりにホップを加える。

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遠心分離機でろ過した後、約20℃まで冷却され発酵タンクへ。
ここでは仕込み2回分に相当する50キロリットルのタンクが合計6本備えてある。
※来年2010年には新しい発酵タンクを設置する予定とのこと。

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この発酵タンクではビールによって異なるが、18~32℃で3日ないし5日発酵が行われる。
ここで使用される酵母は、前々任のテオドール神父によって、1948年に分離、培養されたもの。

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麦汁が発酵している間に増殖し、増えすぎた酵母を取り除くため、遠心分離機にかけた後、冷却される。
遠心分離機によって取り除かれた酵母は回収され、薬局で販売される酵母錠剤に生まれ変わる。

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その後1~2週間、2~3℃で熟成される。
冷却によって熟成は安定するが、ビールは混濁する。
この混濁を取り除くため、毎分7,000回転する高速・高性能の遠心分離機でろ過される。

写真は2003年から使われている熟成タンクで、容量は75キロリットル。
この場所には1971年頃まで瓶詰ラインが設置されていた。
熟成タンクは修道院の外観を損ねないように、わざわざ太く低い作りのタンクを採用しているとのこと。

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最後に瓶内二次発酵用の糖分と酵母が添加されるのだが、約10キロ離れた瓶詰工場まで運ぶため、なんとタンクローリーのところで添加される。
タンクローリーには、ビール、酵母、糖分用の3つの管が用意されている。

 

 

 

醸造所訪問記

午前5時半頃起床。
起き上がるといきなり頭痛に襲われた。
どう考えても昨夜は飲みすぎてしまった。

朝食をとった後ロビーに集合。
ここで今回のツアーを案内していただくKさんと合流。
Kさんとはもう10年以上の付き合いで少し前に日本で再会して以来だった。

実は今回現地参加するツアーとは、JTBさん主催の、ベルギー(+オランダ)ビールツアー2009 7つのトラピスト・ビールを訪ねる「ビール巡礼の旅」7日間、というもの。
意外にもこれまでトラピストビール醸造所の中まで訪れたのは数少ないので、これはチャンスとばかりに参加することにしたのだ。

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バスに乗るためホテルの外に出ると雨と強風。
今週中はずっとこのような天気らしい。
しかも事故による渋滞のため、ブリュッセルを抜けるだけでも30分以上かかってしまった。
バスの大きさに対して人数が少ないため、中ではゆっくりくつろぐことができた。
途中、Kさんと近況報告をしあったり、資料に目を通したりして過ごした。

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出発して約2時間ほど、10時半過ぎに到着。
ここはエノー州の南端に位置している。
シメイはスクールモン修道院から10キロほど離れた、ベイルゥという町で瓶詰めされているのだが、まずはそこに併設されているビジターセンターへ。

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うれしいことに、ベルギー国旗、シメイの旗とともに、私たちを歓迎するための日本国旗が掲揚されていた。

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ここが瓶詰工場に併設されているビジターセンター。

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すぐに奥のホールに招かれ、ここで輸出マネージャーのボーデン・ファブリス氏が紹介された。
まずは15分程度のシメイの紹介ビデオを観た。
11年前に製作されたものだったため、すでに亡くなっているトーマス神父の元気な姿を見ることができた。

それによると、スクールモン修道院は1850年に設立。
1862年にはビールの醸造を開始した。
1971年に瓶詰工場、2000年にはオフィスが完成。
現在、現場に修道士は勤務していないが、17名の修道士たちがすべての決定事項に関わっているとのこと。

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ビジターセンターから瓶詰工場へ移動。
瓶詰工場はかなり規模が大きく近代的。
外はまだ雨が強く降っていた。

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瓶詰工場内の事務所。

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どうやら、グラン レゼルヴという名前らしい。

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日本では見たことの無い、330ml×12本用のカートン。

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瓶詰工場はちょうどメンテナンス中で稼動していないとのことだったが、行程順に見学開始。

機械は「瓶詰ラインのロールスロイス」の異名を持つ、ドイツのクローネス社のもの。
ここでは11年前に約600万ユーロをかけて導入したとのこと。
デュベル・モルトガットやオルヴァルでも同じメーカーのものが使われている。

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シメイに使われる瓶は約8回~9回はリサイクルされる。
ただし日本向けはすべて新瓶となるためややコスト高。
毎日7パレットもの他社扱い瓶が戻ってくるため、月に一回はそれぞれ返却するそうだ。

戻ってきた瓶は16,000本を収納できるボトル洗浄機に運ばれ、洗剤で2回、水で2回という20分の洗浄行程を経る。
高温で洗浄するため割れるものが出てくるが、弱い瓶をあえてここで破壊しておくことも目的のひとつ。
およそ6万本の瓶を洗浄する能力がある。

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瓶詰は1ヶ月のうち3週間は330ml瓶、1週間は750ml瓶。
瓶詰の前にトラックのタンクを20℃まで温め、直接糖と酵母を加えた後、瓶詰。
ここで加えられる酵母は主発酵と同じものが使われる。
その後はレーザーでトラック(ロット)ナンバーを刻印。
トラックのタンクには1本あたり25klのビールが入る。

瓶詰は一日6時間稼動しているが、1時間あたり330mlは4万本、750mlは1万5千本の瓶詰が可能。

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工場内を移動中に幸運にもジェロボアム(3リットル)の瓶詰作業を見ることができた。
たまたまこの日が作業日だったらしい。
4人がかりで手間のかかる作業のようだった。

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まさしく2009年11月23日瓶詰のジェロボアム。

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日本でもおなじみとなったトリプルの樽詰。
2001年からスタートした。

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次に入ったのは5年前にできたという貯蔵庫。
床から天井まで均一な温度と湿度が保たれるように、4台の送風機でたえず空気が循環するようになっている。
全部で17万ケースのシメイが収容できるとのことだが、販売ベースで約5~6週間分だそうだ。
ここでシメイの二次発酵は瓶も樽もすべて24℃で21日間行われる。

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ケースにはロット毎に気圧計が取り付けられている。
最初は1~2barだが、最終的には6barにまで上がる。

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ものすごい数量の打栓前の王冠。

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日本を始めとして輸出用にはプラ箱でなく段ボールに移し変えられる。
以前は6人がかりの手作業での移し変えだったが、2001年頃から輸出量が増加したため、2003年にプラ箱から段ボール箱へ自動で移し変える機械が導入された。

 

醸造所訪問記

■ヴァン・デン・ボッシュ醸造所へ

今日は出国することもあり、昨日と同じ午前7時スタート。
道路もスムーズに移動することができて予定通り8時にヴァン・デン・ボッシュ醸造所に到着した。

醸造所はゲントとブリュッセルの中間地点よりやや東側、デ・ライク醸造所のあるヘルゼールの自治体、シント・リーヴェンス・エッセにある。

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1800年代の終わりにアーサー・ヴァン・デン・ボッシュが農場を購入。
1897年、彼はその場所に醸造所を設立し、ヴァン・デン・ボッシュ醸造所と名づけた。
現在でも醸造所のある場所には当時の建物が残されている。
アールデコ建築のすばらしいもの。

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1925年にアーサーが亡くなった後も、彼の妻とウィリー、マルクの二人の息子は醸造所をどんどん発展させていった。
ウィリーはチョコレートメーカーとして有名なガルボーの設立者の娘。
その後マルクの息子イグナスが3代目となり、醸造所を近代化させた。

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現当主はイグナスの長男ブルーノで主に営業活動を担当、弟のエマニュエルが醸造を担当、そして先代夫婦で運営している家族経営の醸造所。

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中に入るとさっそく社長のブルーノ氏が出迎えてくれた。
さっそく事務所の中でミーティングを開始したが、この醸造所には興味深い物語が満載で聞いているだけでも楽しくなってきてしまう。

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ミーティングの後、さっそく醸造所内部の見学。
かなり古い設備が現在でも使われている。

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まず屋根裏部屋から。
ここには原料が保管されている。

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麦芽を粉砕するミル。

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仕込み釜。
ここでは毎週金曜日に仕込みを行っており、その都度違うタイプのビールを仕込んでいる。

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発酵タンクが3本。

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こちらはケグ詰め用のタンク。

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瓶詰めライン。

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こちらは二次発酵及び熟成室。
ここでは、25℃で1週間半~2週間程度保管される。

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醸造所見学の後はティスティングルームで試飲。
全部で9種類のビールをティスティング。
ベルジャン・スタウトなど、とても興味深い銘柄もあった。

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ブルーノ氏と一緒に。

ここでいったん終了となったが、この後ブルーノ氏がヴァン・デン・ボッシュの物語にまつわる場所にわざわざ案内してくれることになった。
こういうのが毎回たまらない。

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これは醸造所の目の前にある村のステージ。
ここには、「ブファロ」という銘柄にまつわる物語がある。

ブファロ(バッファロー)はこの醸造所で最も古いビールで、1907年から造られている。
物語はこうだ。
かつてビールの仕込には石炭が使われていた。
ちょうど醸造所のある町にバッファロー・ビルのサーカス団が来ていたため、若い従業員はそれを観にいきたくて仕方がなかった。
彼はとうとう我慢できなくなって、たくさんの石炭を釜に放り込んでサーカスを見に行ってしまった。
サーカスに夢中になっていたので、醸造所に戻ることをすっかり忘れていたのだが、思い出して慌てて戻ってみると、釜の底は焦げてしまいカラメル状になっていた。
しかしそのビールを皆で試飲してみたところとても美味しかったので、このビールは、そのときのサーカス団にちなんで”Buffalo”と名づけられ、醸造所の主力の銘柄になった、という話。

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次は、「セント・リヴィニュス」という銘柄にまつわる物語の場所へ。
ここは、セント・リーヴェンスカペレ。

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聖リヴィニュスは556年に宣教師としてこの村にやってきた。
最後はこの村で首を斬られてしまうのだが、なんと彼は自分の首を手に持って、杖を片手に歩き始めた。

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結局隣のシント・リーヴェンス・ホートムまで歩いて、そこで亡くなったそうだが、なんと彼が杖をついた後には泉(井戸)ができた。
村にはその泉の水を飲むと病気が治るという言い伝えがある。
現在でも聖リヴィニュスのカペレ(教会)や泉があり、見学することができる。
ちなみにヴァン・デン・ボッシュではこの泉のものと同じ水を使ってビールを造っているとのこと。
写真は物語に出てくる泉(井戸)。

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次のアポイントが12時半だったが早めに終わってしまったので、次の訪問場所であるデ・ライク醸造所のアンさんに電話。
早く行っても良いか訊ねてみると、ちょうど瓶詰め機にトラブルが起こってしまったとのことで残念ながら断られてしまった。

仕方が無いので近くの町、ゾッテゲムのセンターへ。
これが実はかえってラッキーで、またビールにまつわる物語を探訪する時間になった。

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インフォメーションで情報収集していると、なんと偶然ここにエグモンにまつわるものがたくさんあることを知った。
センターの中央には、エグモンの像もあったのだ。

ここで偶然にも、ヴァン・デン・ボッシュ醸造所でも1987年から造られている銘柄、「ラモーラル・デグモン」の物語に出会うことになった。
このビールの名前になっているラモーラル(1522-1568)は、ヴァン・デン・ボッシュのある、セント・リーヴェンス・エッセ出身の軍人でエグモン伯とも呼ばれている。

スペイン統治時代に対抗したエグモン伯は、1567年に逮捕され、翌年ブリュッセルのグランプラスで斬首刑に処されてしまう。
エグモンの名前は今でも広く知られており、エグモン宮やエグモン庭園などにも名前が使われているほど。

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そのエグモンの墓がこのセンターにある教会の地下にある、というので「ぜひ見せてほしい」と頼むと、なんと鍵を渡してくれ、「どうぞご自由に。」とのこと。

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おそるおそる地下に降りてみると、、、鉄格子の中に墓(ミイラ)が。
左側が奥さんで右側がエグモン。
しかしこんなものを勝手に見せてくれるなんて日本では考えられない。

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再度インフォメーションに戻ると、今度はここの2階にエグモン伯が斬首刑になった際の首の一部が展示されているという。
さっそくこれも見せてもらった。
写真は、斬首刑になったエグモンの絵。

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インフォメーションのおばさんにお礼を言って、今度はすぐそばにあるというエグモンのお城へ。

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現在は図書館として利用されているとのことだった。

しかし時間つぶしのつもりが、とても興味深いベルギービールにまつわる物語探訪の時間となって、実に有意義だった。

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12時半、今度は予定通りデ・ライク醸造所に到着。
この日はトラブルで本当に大変だったようで、社長のアンさんはめずらしく作業着のまま現れた。

いつものようにミーティングルームで待っていると、アンさんが入ってきてと「今日は紹介したい人がいるの。」と言う。
しばらくして入ってきたのは作業着に長グツ姿だが、長い髪、大きな瞳に笑顔が素敵な若く美しい女性。
なんとその女性は、アンさんの愛娘ミークだった。

ミークは現在言語セラピストとして働いているのだが、母親を見ているうちにだんだん醸造に興味が湧き、たまに手伝ったりしているそうだ。
「お母さんのようにブルーマスターになるの?」と聞いてみると、「それは分からないわ。」とはにかむミーク。
彼女の後姿を見守るアンさんの顔はとても優しかった。

ただでさえ後継者不足に悩む業界だけに、こうした若い人、しかも女性が醸造に興味を持ってくれるのは、私たちベルギービールを愛する者にとって本当にうれしい事。
しかも当主2代にわたって女性ブルーマスターなんて素敵ではないか。
アンは醸造所伝統の味わいを守りながら、新しいチェリービール、クリーク・ファンタスティークを造った。
この先ミークはいったいどんな挑戦をしてくれるのだろうか。
今からとても楽しみだ。

ミーティング終了後、日通に寄ってそのままブリュッセル空港へ。
今回のベルギー訪問も多くの収穫があった。

 

醸造所訪問記

■ケルコム醸造所へ

午前6時半起床。
この日もゆったり朝食をとって8時にOさんと合流。
天気予報によると今日は一日中雨のようだ。

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今日最初の訪問場所はリンブルグ州にあるケルコム醸造所。
特に渋滞なども無く、予定通り午前9時に醸造所到着。

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醸造所の中に入るとどうやら工事中の様子。
マルク氏に聞いてみると、法律の関係上、醸造器具などの場所を移動せざるを得なくなったため、改装したり、醸造器具を買い換えたりと、大変な様子だった。
タンク等もすべて新しくなるとのことで、その後の味わいの変化などについては気になるところ。

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醸造所内の一角にはテントを立ててカフェを増設。

なんでもベルギーのBRTというテレビ局で、「KATARAKT」という、ここハスペンゴウ地方を舞台にしたフィクションのドラマが放映されたとのこと。
その影響で観光客が急に増えたそうだ。

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番組自体は3月2日に終了しているが、花が咲く4月中旬以降に、また観光客が増えることを予想して準備しているとのこと。

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マルク氏のお宅に招いてもらい、奥さんのマリーナさんも交えてビール、軽食とともに打ち合わせ開始。

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これは醸造所の130周年と、先ほどのテレビドラマを記念して造られた新しいビール。(グラスはマルク氏とマリーナさんの結婚式の引き出物)
レギュラー商品のブルーセム・ビンクの内容を一時的に変えて醸造するとのこと。

「KATARAKT」はフラマン語で目という意味で、白内障の女性キャスターが主人公のドラマだったそうなのだが、そのタイトルを文字って、「Ka(ta)rakter」と名づけられている。

ビールには果物だけで作ったシロップや、内緒(笑)の原料が使われている。
スタンダードのブルーセム・ビンクに比べると、ラズベリーやカシスなどのベリー系の香りがとても強くいのが特徴。

他にもいろいろ打ち合わせをして、11時頃醸造所を出発した。

午後からは主にアントワープで輸送関係の打ち合わせ。

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パナルピナ(PANALPINA)、ノヴァナシー(NOVA NATIE)の各担当者とミーティング。

日通で別送品の打ち合わせをした後、Oさんのお宅へ。
まもなく結婚される婚約者のSさんと一緒に夕食。
かなり日本の料理の特徴が取り入れられていて親しみやすい食事だった。
話も弾んで実に楽しいひと時を過ごすことができた。

午後8時頃ホテル帰着。

醸造所訪問記

■スラッグムルダー醸造所へ

午前6時半起床。
この日もゆったり朝食をとって8時にOさんと合流。

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外に出てみると一面雪景色でびっくり!
夜中に積もったようだ。
雪景色の中、高速E40を通ってゲント方面へ。

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今日一番目の訪問場所であるスラッグムルダー醸造所には予定通り午前9時に到着。
前回同様、輸出、マーケティング担当のブリジットさんが出迎えてくれた。

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事務所の入り口にはイースターらしく、装飾された卵が飾ってある。
手前にあるブルーラベルのビールは、イースター限定醸造でラガータイプの”Slagmuylder Paasbier”。

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今回、発酵タンクを新しいものにするとのこと。
敷地内に新しいタンクがまだ置いてあった。

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工場内をざっと見学した後、ビールを飲みながらブリジットさんたちと打ち合わせ。

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このビールは”Greut Lawauitj”。
醸造所のあるニノーヴの方言で、「大きな音」という意味。
このビールにも面白い物語があった。

昔新聞が無かった時代、ニュースを大声で伝えるという仕事があった。
Town Crierと呼ばれ、大きな声を持つ人が広場などで大声で知らせたそうだ。
その名残で今では大声コンテストが行われていて、2007年にはここニノーヴ出身の人が世界チャンピオンになったとのこと。
それを記念して造られたのがこのビールというわけ。

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2007年12月にはブリュッセルのビアテイスタークラブ「Lobrulef」が350銘柄の中から最もお気に入りの銘柄としてウィットカップ・トリプルを選んだそうだ。
写真はそのときの新聞記事。

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最後にブリジットさん、ルックさん、エヴァードさんと乾杯!
じつはこの3人はスラッグムルダー醸造所の共同経営者で親族同士。

ブリジットさんは3代目兄弟エミールの孫で5代目。
常務取締役、経理、輸出、マーケティングを担当。
ルックさんは3代目兄弟エドモンドの孫ベネディクトの夫。
スラッグムルダーのビール醸造の責任者。
エヴァードさんは3代目兄弟エドワードの息子で4代目。
技術者であり、瓶詰めや機械のメンテナンス、物流までを担当している。

面白いのは3~4代目まではすべての人の名前に「E」がつくこと。
かつてスラッグムルダーのケグにはESという刻印があり、これを変えるのが面倒だったために子孫の名前に「E」とつけたそうだ。

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11時過ぎにスラッグムルダー醸造所を出た後、ブルージュに向かう。
12時過ぎには今日二番目の訪問場所である、ドゥ・ハルヴ・マーン醸造所に到着。

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醸造所併設のレストランでビールとランチをいただきながら、社長のザヴィエル氏と打ち合わせ。

商談のほか、新しい情報として、会社を醸造部門と、見学センター、レストランの二つに分割したこと、ブルッグス・ゾットが数々のコンペティションで入賞を果たし、年々すごい勢いで伸びていることなどについて聞くことができた。

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ブルッグス・ゾット・ブロンドを使ったビールスープ。
他に野菜、チーズ、クリームなども入っている。

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あひる肉のランチセット。

レストランで2時間ほど打ち合わせをして、ブルージュを後にした。

三番目の訪問場所であるボーレンス醸造所には1時間後の午後3時に到着。
この醸造所は中断はあったものの、今年で創業100年を迎える。

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今回は初めて自宅に招いてもらい、奥さんとともに打ち合わせ開始。
ボーレンスはもっとも色々なことを言わなくてはいけない醸造所。(笑)
特にラベルの貼り方については日本の市場のことを良く説明し、改善してもらうように頼んだ。

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奥さんはいつも「簡単なものだけど。」といいながら、美味しい軽食を出してくれる。
写真はサーモン、小エビなど。

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ボーレンス夫妻と。

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おどけてポーズをとるクリス氏。
なんと『ベルギービール大全』のビーケンのページをパネルにして、醸造所内に飾ってくれていた。

2時間ほど打ち合わせをした後、醸造所を出発。
午後6時前にはホテルに着いた。

 

醸造所訪問記

■コントレラス醸造所へ

午前7時起床。
ゆったり朝食をとって9時前にOさんと合流。

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比較的天気が良いが、昨夜の雪でところどころ雪が積もっていた。
今日の予定はコントレラス醸造所のみ。
普通はイースターで休みの会社が多いのだが、ここは家族だけで経営している小さな醸造所のため、休みも関係ないということで訪問させてもらうことに。

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アールスト、ゲントを経由して醸造所に到着したのは約束のちょうど5分前。
さすがOさん!

出迎えてくれたのは現社長のフレデリック氏。
2回目の訪問となる今回は事務所に通してもらった。

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コントレラス醸造所は東フランドル州のGavere(ガーヴレ)という村にある。
このあたりは「フランダースのアルデンヌ」と呼ばれる起伏に富んだ地形で伝統的なフランダースの村である。

醸造所の創業は1818年。
当初は典型的な醸造農家で、夏は農業を営み、冬にはビールを醸造していた。
もともと醸造所を所有していたのはレット家だったが、1898年にゲント近郊に醸造所を所有していたコントレラス家のルネ・コントレラスに売却。

第一次世界大戦前後にはゲント近郊の醸造所は廃業し、現在のコントレラスのみとなった。
第二次世界大戦後、ピルスナーを発売すると大人気となり、4代目のマルセルはさまざまな設備投資を行った。
当時は村にあった60軒ほどのバーに卸していたが、だんだんバーの軒数が少なくなるにつれてビールの販売量も減っていったため、消費者向けに瓶内二次発酵タイプの新しいビールを開発していくことになった。

1957年、5代目のウィリーは醸造学校で醸造を学び、1982年にマルセルが亡くなると、後を継いでさらに醸造所を発展させていった。

2000年からはウィリーの娘アンの夫であるフレデリックが醸造所で働き始め、2005年には正式に6代目の当主となった。

現在ではピルスナーのほかに、上面発酵タイプのトンネケ、ヴァレールといったシリーズがあり、年間生産量は250klと小規模ながら秀逸な味わいのビールを造り続けている。

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約50年前から使用している仕込釜。
現在仕込みは1週間に1回。

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こちらは2機ある煮沸釜。
仕込みの際に使うお湯はここで前夜に温められる。
麦汁は再びここに戻って1時間~1時間半煮沸される。

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ここでは多くの醸造所で使われなくなった昔ながらの冷却機を今なお使用している。
この冷却機のパイプは縦に大きく3層に分かれており、その中に水や氷をそれぞれ入れることで最終的な温度を調整しているのだ。

上面発酵タイプの場合は上から2層のパイプに地下水を入れ、最終的に22℃まで冷却、下面発酵タイプの場合は、さらに3層目のパイプに氷を入れ、最終的に14℃まで冷却される。

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次に1階の醗酵室へ。
こちらは下面発酵タイプの発酵タンク。
12℃で約1週間発酵が続く。

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こちらは上面発酵タイプの発酵タンク。
22℃~25℃で4日間発酵が続く。

この後、熟成室でそれぞれ熟成された後、瓶詰め。

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1時間に約3000~4000本の瓶詰めを行うことができる。

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現社長のフレデリック氏。
話を終えて外に出るとものすごい吹雪!

「イースターに雪が降るなんて初めての経験だよ!」

とコントレラス親子。

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その後Oさんと、コントレラスの銘柄のひとつ、Valeirの物語を追っていくことに。

Valeir(ヴァレ-ル)は2004年にリリースされたコントレラス醸造所では新しい銘柄。
この名前がつけられたのには2つの理由がある。

一つは、もともと醸造所を所有していたレット家の創業者の名前が、”Valeir Latte”という名前だったこと。
そしてもう一つは、1453年まで続いた百年戦争で活躍したこの村出身の戦士の名前が”Valeir”だったこと。

なんと醸造所から近い公園にその戦士の像があるという話を聞き、さっそく行ってみることに。
これがあるからベルギービールの楽しみは尽きない。

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村の中心の広場にその像は建っていた。
近寄ってみると威圧感たっぷりの佇まい。

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像の足元に文字が彫ってあった。

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しばらくして広場を立ち去ろうとしたとき、今度は壁に描かれた不思議な絵を発見。
じつはこれもコントレラス醸造所のビールの物語の一端を担っていた。

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毎年フランダースではどこかの村や町で自転車のレースが開催されている。
1960年にはこの村の出身者がレースで優勝し、その人は「ELTORO」というあだ名で呼ばれていた。
2007年にはここGavereでそのレースが行われたため、それを記念して「ELTORO」というビールが仕込まれた。 (現在は別の名前で販売されている)

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その後ホテルまで送ってもらい、食事のため外へ出ようとしたがものすごい吹雪。
たまに晴天になったりもするが、またすぐに吹雪になるという不安定な天気。
仕方がないのでホテル1階にある、カフェでパスタとヒューガルデンを。

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夜はさっそくサンプルでもらったValeir Blondを試飲。
ドライホッピングを行っているという、秀逸な味わいだった。

 

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